論文North-South Displacement Effects of Environmental RegulationがAER: Insightsに採択
先進国の環境規制が環境汚染を起こす生産工程を途上国へ移転させ、移転先住民の健康に悪影響をもたらすことを、米国・メキシコの鉛規制・バッテリーリサイクルの事例で示した論文(田中伸介, Eric Verhoogen各氏と共著)ががAER: Insightsに採択されました。
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以下、論文の内容紹介ツイートを貼りつけます。
お知らせ:先進国の環境規制が環境汚染を起こす生産工程を途上国へ移転させ、移転先住民の健康に悪影響をもたらすことを、米国・メキシコの鉛規制・バッテリーリサイクルの事例で示した論文(田中伸介, Eric Verhoogen各氏と共著)を公開しました。(1/n)https://t.co/ta4NZXz4k8 pic.twitter.com/tX9DFDDjAP
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
論文では米国の鉛大気排出規制強化が
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
1. 米国の使用済鉛バッテリーリサイクル工場周辺の鉛汚染改善
2. 規制が緩いメキシコへの使用済鉛バッテリー輸出急増
3. メキシコのバッテリーリサイクル増
4. メキシコバッテリーリサイクル工場周辺の新出生児の健康状態の悪化
を起こしたことを示しました。2/n
米国で生産された鉛の9割は自動車や産業機械などのバッテリー(蓄電池) に使用され、鉛の生産の9割はそれらの使用済バッテリーのリサイクルによるものでした(2010年時点)。鉛がバッテリーになって、使用済バッテリーから鉛がリサイクルされるというように、鉛とバッテリーは不可分の関係になります。3/n
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
米国は2009年1月に鉛大気排出規制(鉛許容量)を立法メートル当たり1.5μgから0.15μgへと大幅強化しました。
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
鉛計測モニタのうち規制変化前0.15μgを超えていたものとそれ以外の比較で前者の計測量が規制変化以降急減しました。そして前者近辺の鉛排出源のほとんどがバッテリーリサイクル工場でした。4/n pic.twitter.com/P7fOEgYR3E
しかし、同時に、規制変化後米国からメキシコへの使用済鉛バッテリー輸出が急増しました。
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2005年~2008年まで横ばいだった輸出が2009年以降急拡大した様子が見てとれます。
類似産業に比べても輸出が伸びています。5/n pic.twitter.com/oJaqKhq9bP
またその結果メキシコでも類似産業に比べてバッテリーリサイクル量が増えました。
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
類似産業に比べ2003-2008年の付加価値成長率は低めでしたが2008-2013年にかけては一番高くなっています。
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そして、メキシコバッテリーリサイクル工場約3km(2マイル)以内地域の新出生児の低体重出生の割合が約3-6km(2-4マイル)範囲内に比べて、米国規制変化後に増加しました。規制変化によるバッテリーリサイクル工程の移転による悪影響と解釈される結果です。7/n pic.twitter.com/Aw2RLd6a1C
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
さらに、そのような悪影響はメキシコ保健省(MH)運営病院という社会保険が”ない”人のための公営病院(表のMH)で生まれた子ども、つまりメキシコ社会の中でも不利な社会階層の子どもに集中していたこともわかりました。8/n pic.twitter.com/SMZEcSQfTI
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
先進国と途上国の環境規制の違いが環境汚染を途上国へ移転させるという仮説は汚染逃避地仮説と呼ばれ長く検証されてきましたが、バッテリーリサイクルと鉛規制強化に着目して、環境規制強化で移転が起こること、移転先で実際に健康被害を起こしていることを示した点がユニークな点です。9/n
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
我々の結果が一般化可能かはまだ不明です。
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
汚染逃避地仮説の研究結果が割れていたことに関して、汚染産業は同時に技術的に移転費用も高いことが指摘されています。
使用済バッテリーと非熟練労働で可能なバッテリーリサイクルは途上国への移転可能性の点では例外的なケースかもしれません。10/n
他方、バッテリーリサイクルは米でもメキシコでも個別の産業コードはなく、産業単位のデータ、または企業/工場データでも通常の産業分類しかついていないデータでは、今回のような発見は困難です。
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
他の文脈でも生産工程について汚染と移転可能性についてより細かく分析した研究が待たれます。11/n
アクセス制約のないリンク は↓https://t.co/CfXbKkNI4f
— K. Teshima 手島健介 (@tetteresearch) 2021年8月16日
本論文はAER: Insightsに近刊です。どの研究もそうですが、今回の研究でも直接謝辞にあげられなかった方も含め色々な場所でのたくさんの方との議論から多くを学び研究の改善につなげることができました。お礼申し上げます。n/n