ショートペーパーを扱う雑誌の拡大(2021年2月時点)
2年くらい前に米国経済学会が新たに創刊した雑誌American Economic Review: Insights (AER: Insights)についての雑感と経験談を書きました。
その際に、新雑誌が成功しないかもしれない要因として、
リジェクトされたら次にどうするか。論文の形式としては前述のようにScienceに近いがScienceは投稿できるトピックが経済学では限られているし現実的なオプションではない。論文を短縮化するには努力が必要で、それは次に生きない努力かもしれない。
という要因があり、そのことによって、ショートペーパーを書くインセンティブが著者側に十分にないかもしれないということを書きました。それ以降、AER: Insightsのようなショートペーパーを扱うと明示的に宣言する雑誌がだいぶ増えてきて、この懸念は解消される方向に向かっているように思います。背景にはショートペーパー需要があったことに加え、コロナ禍のもと、政策的に重要な論文の出版プロセスをできるだけ速めたい雑誌側の思惑があったように思います。この記事では、現在調べた限りの情報を共有したいと思います。なお、この情報は2021年2月27日時点の情報であり、今後の(あるいは現時点ですらも)正確性は保証しません。
American Economic Journal (AEJ)各誌へのレフェリーレポート移転ポリシー
AER: Insightsでリジェクトされた論文を、AER同様にAEJ: Applied EconomicsなどのAEJ誌にAER: Insightsでのレフェリーレポートを添付して投稿できるようになっています。例えば、以下はAEJ: Applied Economicsの投稿ガイドラインへのリンクです。
https://www.aeaweb.org/journals/app/submissions/guidelines
ショートペーパーに対するガイドラインを新設した雑誌
トップフィールド以上のランクの雑誌では少なくとも下記のものがショートペーパーを扱うと明示的に宣言しています。
雑誌名 | 語数・図表数 | 決定方式 | 速さ |
---|---|---|---|
AER: Insights | 6000語・5個まで | 条件つきアクセプトかリジェクト | 査読に回った際のメディアンが44日*1 |
Review of Economics and Statistics | 6000語・5個まで | 通常のR&Rかリジェクト | 通常通り |
Economic Journal | 6000語・5個まで | 通常のR&Rかリジェクト | 通常通り |
Journal of Public Economics | 6000語・5個まで | 条件つきアクセプトかリジェクト | 4-6週間 |
Journal of Development Economics | 6000語・5個まで | 条件つきアクセプトかリジェクト | 4-6週間 |
・語数・図表数はみなAER: Insightsのものを踏襲していますね。なお、6000語というのはEconomics Lettersの3倍なのでそこまで短いわけではありません。自分の論文ですみませんが、WP版だとこれくらいの分量です。
・Journal of Public EconomicsとJournal of Development Economicsは(デスクリジェクトされず査読に回った場合)、条件つきアクセプトかリジェクトのみ、というところもAER: Insightsの方針を踏襲しています。ただし、両誌とも条件つきアクセプトの際には4週間以内に修正して送り返さないといけないと書いています。AER: Insightsはsubmission guidelineには書いてありませんが私の論文の時には8週間でした。
・それに対して、Review of Economics and StatisticsとEconomic Journalは査読プロセスそのものは通常の長さの論文と同じのようです。これだと、レフェリーに特別な指令がいかない限り、R&Rになった場合でも大量の追加分析を要求されるような気もしますが。。
・細かい点では、AER: InsightsとReview of Economics and Statisticsでは図表を1個減らすと200語文章を増やせるようです(つまり図表を全部なくすと7000語まで書けることになります)。また、Appendixのページ数に制約がある雑誌もあります。
・その他の雑誌では、Journal of Urban EconomicsがJournal of Urban Economics: Insightsを創刊すると宣言しています。創刊号はCovid 19特集ですが、それ以降、他のトピックも扱うようになる模様です。リンク
・World Development Perspectivesという雑誌が5000語のようです(↓)。この雑誌はAER: Insights創刊以前の4-5年前に創刊されているようです。情報ありがとうございました!
このリストは、とっても有益ですね。大変ありがとうございます!World Development Perspectivesはどうでしょうか。5000語までと書いているようですが、査読プロセスについては書いていないかもしれません。
— Yasu Sawada 澤田康幸 (@yasusawada) 2021年3月1日